近年、日本において、中途失明の原因で第2位(H17年度)となっているのが、糖尿病の合併症の1つである糖尿病網膜症です。
眼球の奥には網膜といって、目に入ってきた光が像を結ぶ場所があり、そこにはたくさんの毛細血管が通っています。糖尿病による高血糖の状態が続くと、これらの血管の壁に異常が現れ、こぶ(血糖瘤)ができたり、血液の成分が外にしみ出したり、血管が詰まってしまったりします。
すると、網膜の中の血液がスムーズに流れなくなって、場所によっては、必要なだけの酸素や栄養分を受け取ることができなくなってしまいます。
血液が流れなくなってしまった場所には新生血管という新しい血管が出てきて、栄養不足を補おうとするのですが、この新生血管は非常に破れやすく、時に大出血を起こして病状を悪化させてしまいかねません。
この状態になると、硝子体出血や網膜剥離、血管新生緑内障を起こしたりして、放置すると、突然失明したりします。これが、糖尿病網膜症です。
毛細血管は、糖尿病を発症してから数年〜十数年かけて徐々に障害されていきます。しかし、視力は徐々に低下するわけではなく、多くの場合、ある日突然、急激な視力低下が起こります。それまではほとんど視力が変わらないため、糖尿病網膜症の進行に気づかないこと多いのです。
糖尿病網膜症は、次の3段階で進行します。
@単純網膜症
網膜の血流に障害が起こり始めた初期の段階です。毛細血管の壁のところどころに、瘤ができそれが破れて点状の出血が起こります。
しかし、この段階では、眼底検査を行っても点状の眼底出血がみられる程度で、自覚症状はありません。2〜6ヶ月ごとの精密眼底検査で、病状を観察する必要があります。
A増殖前網膜症
進行すると血管が詰まって、網膜の一部に虚血(血液不足)部分が生じます。血流が悪くなるために、網膜細胞が変性し、しみ状になってしまいます。
血管閉塞や血管からにじみ出た液が網膜にたまり、網膜浮腫が起こることもあります。黄斑部の浮腫は、視力低下につながります。
B増殖網膜症
虚血部分が酸素不足に陥るため、体内ではそれに対処しようと、「新生血管」を伸ばしてきます。新生血管とは、必要の内異常血管です。そのためもろくて破れやすく、眼底のあちらこちらで出血が起きます。
また新生血管が硝子体に伸びて増殖すると、硝子体内で大出血を起こしてしまいます。さらに異常な増殖膜を作りますので、それが網膜を引っ張り、網膜剥離を起こすなど、目の状態は著しく悪化していきます。
このように段階を踏んで進行していくものの、硝子体出血が起こるまでは自覚症状は現れないことも少なくありません。
糖尿病網膜症の治療は、病気の進行に応じて異なります。しかしどの段階においても、その背景にある糖尿病の治療は欠かせません。
血糖値を下げるには、食生活の改善や運動療法を行いますが、効果が現れない場合や効果が不十分な場合などに、薬による治療が必要になります。血糖がコントロールできれば、網膜症の進行を防ぐことも可能です。
@レーザー治療
新生血管がある場合に行うのが、レーザー治療です。毛細血管の詰まった部分にレーザーを照射して凝固し、新生血管の増殖を防ぎます。局所麻酔をして行うため、ほとんど痛みはありませんが、痛みを感じる人もいます。
通常、1回の治療で500発程度照射します。眼底全体に行う場合は、炎症を防ぐために、1週おきに4回程度に分けて行います。重症の糖尿病網膜症で、レーザー治療を受けなかった人と受けた人の失明率を調べた所、受けなかった人の30%以上が6年たった時点で失明していましたが、受けた人では20%以下に抑えられています。
A硝子体手術
新生血管が破れて、硝子体出血が起こっている場合は、硝子体手術が行われます。白目の部分に小さな孔を開け、出血を硝子体ごと吸引します。硝子体を取り除いても、毛様体という部分から房水が分泌されるため、眼球の形は保たれます。
出血が除去されれば、また元通りに見えるようになることもありますが、網膜自体の傷みが重い場合には、視力が十分に出ないこともあります。また硝子体出血を長く放置していると、治療を受けても視力が戻らないこともあります。